2012/03/12

スティーブ・ジョブズ ⅱ


title:スティーブ・ジョブズ ⅱ
author:ウォルター・アイザックソン
publish:講談社



 ハードウェアの製造をあきらめるのだ。これは、ピクサーでハードウェアをあきらめたときと同じくらい同じくらいつらい選択だった。これは、ジョブズは製品のあらゆる側面を愛しているが、なかでも情熱を注ぐのがハードウェアだ。すばらしいデザインを見れば元気になるし、製造工程のわずかな違いにまでこだわる。完璧なマシンをロボットが作れるところならば何時間でも見ていられる。そのジョブズが、社員の半分以上を解雇し、愛する工場をキャノンに売却し、つまらないマシンのメーカーに、オペレーティングシステムをライセンスする会社でがまんしなければならなかった。(p.20)

ジョブズは、言う。「ネクストでアップルのときと同じやり方をしようとしたのは間違いだったんだ。ハードウェアに合わせてソフトウェアを作り、ソフトウェアに合わせてハードウェアをつくり、すべてをウィジットにしようとするのは無理だった。世界の変化をとらえ、最初からソフトウェア会社を目指すべきだったんだろう」。しかし、この道では、どうにもやる気が出なかった。消費者が喜ぶエンドツーエンドのすばらしい製品をつくりたいのに、エンタープライズソフトウェアを法人に販売し、ネクストソフトウェアをさまざまなハードウェアプラットフォームにインストロールしてもらうという商売にはまって抜けられなくなってしまったのだ。(p.22)

「スカリーらが気にするのは、金儲けであって、素晴らしい製品を作ることじゃなかった。マッキントッシュがマイクロソフトに敗れたのは、製品を改良したり手に入れやすくしたりせず、スカリーが利益を少しでも多くしようとしたからだ」と、ジョブズは言う。スカリーが利益を求めたから、市場シェアが落ちたと考えている。(p.23)

ジョブズの場合、人々にすごいと思われるモノを作る。それこそが自我が求めるもの。己のうちから沸き上がる衝動なのだ。実際には2種類のもの、ひとつは画期的で世界を変えるような商品。ひとつは、連綿と生き続ける会社だ。(p.39)

ジョブズはなんでも自分がコントロールしないと気がすまない性格だが、同時に、先行きが不透明だと思うと優柔不断になり、前に進めなくなってしまう。完璧を求めるあまり、中途半端なもので妥協したり、可能なものまで我慢したりが上手にできないことがある。複雑なものへの対処も好まない。製品についてもデザインについても、自宅の家具についてもそうだ。この性格は、やる気や姿勢にもはっきりと表れる。これが正しいと確信したジョブズは誰も止められない。しかし少しでも疑いがあると消極的になり、自分にとって必ずしも都合のよくないことを考えずにすまそうとする。(p.54)

幹部社員を講堂に集めて、ジョブズがアドバイザーに就任した。ジョブズはジーンズにスニーカー、黒いハイネックという姿で登場すると、その瞬間から、愛する組織の活性化をはじめた。(p.57)

ジョブズは、ビジネスのあらゆる側面にかかわりはじめる。製品のデザインから切り捨てる事業の選定、サプライヤーとの交渉、広告代理店の再評価などだ。優秀な社員の流出を止めなければならないと考え、ストックオプションの価格改定も計画する。(p.58)

ジョブズは言う。「なんとかしてくれときみに頼まれたから僕はここにいる。鍵を握るのは社員なんだ」。(p.58)

人選のポイントは、忠誠心で、極端とも言えるほどの忠誠心を求めることもあった。(p.63)

「アップル取締役会はCEOから独立した組織ではない」とレビット(元証券取引委員会委員長)は言う。(p.63)

必要なのは、さまざまな製品の広告ではなく、ブランドイメージを前面に出したキャンペーンである。焦点をあてるべきは、コンピューターになにができるのかではなく、コンピューターを使ってクリエイティブな人々は何ができるか、だ。「テーマはプロセッサーのスピードやメモリーではなく、創造性だったんだ」と、ジョブズ。(p.74)

「アップルの人間も、アップルとはなにか、自分たちはどういう人間なのかがわからなくなった。それを思い出すきっかけには、誰が自分にとってヒーローなのかを考えてみるといい。あのキャンペーン(シンク・ディフェレント)はこうして生まれたんだ。」と、ジョブズ。(p.74)

シンク・ディフェレントの登場人物の大半は、ジョブズがヒーローと思う人々だった。リスクを取り、失敗にめげず、人と異なる方法に自らのキャリアを賭けたクリエイティブな人が多い。(p.76)

使いたいガンジーの写真は、他社所有でコマーシャルには使用できないと言われると、所有者に電話をかけ、むりやり例外を認めさせた。(p.77) ※自分がコレと決めたことは、方法を問わず、絶対にゲットする。ダメって言った人に直接連絡をして、説得をすることが多い。(p.77)

ジョブズは、広告代理店やマーケティング、コミュニケーションのトップを集め、メッセージ戦略について自由な討論を3時間も続けるミーティングを、毎週水曜日の午後に開いている。これは「シンク・ディフェレント」キャンペーンのときからずっと続けている習慣だ。「スティーブのようなやり方でマーケティングに関わるCEOはほかにいません。毎週水曜日、新しいコマーシャルやポスター、ビルボード広告まで、一つひとつ、彼が自分でチェックし、承認するのです」。と、クロウ。(p.79)

ジョブズががんばった背景には、息の長い会社を作りたいという情熱があった。ヒューレット・パッカードでアルバイトをした13歳の夏休み、ジョブズは、きちんと経営された会社は個人と比べものにならないほど、イノベーションを生み出せると学んだのだ。(p.83)

あらゆる側面をコントロールしたければ、コンピューター全体をウィジットとし、ユーザー体験について隅から隅まで責任を引き受けなければならないというわけだ。(p.85) ※ジョブズの性格が如実に現れている

ジョブズの得意技に“集中”がある。「何をしないのか決めるのは、何をするのか決めるのと同じくらい大事だ。会社についてもそうだし、製品についてもそうだ」。(p.86)

何をしているのか、担当者にジョブズがたずね、製品やプロジェクトを継続しなければならない理由を説明させるミーティングだ。(p.86)

ジョブズは、製品の見直しをはじめてすぐ、パワーポイントの使用を禁止した。「考えもせずにスライドプレゼンテーションをしようとするのがイヤでねぇ。プレゼンテーションをするのが問題への対処だと思っている。次々とスライドなんか見せず、ちゃんと問題に向き合ってほしい。課題を徹底的に吟味してほしいんだ。自分の仕事をちゃんわかっている人は、パワーポイントなんかいらないよ。」(p.86)

製品レビューで、各部門の官僚主義と小売店の思いつきを満足させるため、どの製品もすさまじい種類が作られていた。「勘違いチームがガラクタを山のように作っていました」。そこで、単純化した質問を投げ始める。「友達に勧めるとしたらどれにすべきなんだい?」。この質問に明快な答えが得られないとわかった時点で、モデルや製品の絞りこみに取りかかった。すぐに70%もカットしてしまう。「君たちは優秀だ。優秀な人間がこんなお粗末な製品に時間を無駄遣いしちゃいけない」。「これで、僕らがいったいどっちに向かっているのか、ようやく分かったんだ」。(p.87)

「我々が必要とするのはこれだけだ」。そう言いながら、升目の上には、「消費者」「プロ」、左側には「デスクトップ」「ポータブル」と書き込む。各分野ごとにひとつずつ、合計4種類のすごい製品を作れ、それが君たちの仕事だとジョブズは宣言した。(p.88)

ニュートンの部門の上層部が信用できなくてね。技術的にはとてもいいものがあると思ったんだけど、経営がだめでおかしくなっていたんだ。(p.89) ※技術と経営が一緒じゃないといけないんだ。

アップルを救ったのは、彼の「絞りこむ力」だった。アップルに復帰した最初の年、ジョブズは3000人以上を解雇し、バランスシートの改善を図った。(p.90)
解雇、商品の見直し、ロジスティックの見直しを図っている。

今後アップル立て直し時のデザイナーであるアイブは言う。「利益を大きくすることばかりを追求していて、心遣いや手間を投入する感覚がなかったのです。我々デザイナーに要求されたのは、ただ、どういう外観であるべきなのかを示すモデルだけ。それをエンジニアがなるべく安く作るわけです。耐えられなくて、会社を辞める寸前でした。(p.93)

ふつうの会社では、たいてい、エンジニアリングがデザインに先行する。まずエンジニアが仕様や要件を決めて、それに見合ったケースや外殻をデザイナーが考える。ジョブズは逆に勧めることが多い。(p.96)

「スティーブと私は、製品が特別なものに感じられるように、梱包を解く儀式をもデザインするわけです。パッケージは映画館のようなもので、ストーリーが生み出せるのです」と、アイブ。(p.101)

「会社というのは、アイデアや素晴らしいデザインが途中でどこかに行ってしまうことが多いのです。私や私のチームがどのようなアイデアを出しても、スティーブがここにて我々をプッシュし、いっしょに仕事をして、我々のアイデアが製品となるよう、さまざまな抵抗を打ち破ってくれなければ、なんの意味も成功も生まれなかったでしょう」と、アイブ。(p.101)

ジョブズの経営哲学は、「集中」だ。製品ラインを絞り込み、開発中のオペレーティングシステムも機能を削りに削った。自社生産へのこだわりを捨て、回路基板やコンピューターまで製造は全てアウトソーシングする。サプライヤーも厳しく管理した。ジョブズが復帰したとき、アップルの倉庫には2ヶ月分の在庫があった。これほどの在庫を抱えるテクノロジー企業はほかにない。コンピューターというのは、卵や牛乳と同じように賞味期限が短いので、この在庫だけで利益が5億ドルは減ってしまう。これをジョブズは1998年頭には、1ヶ月分に半減させた。(p.116)

クックはアップルの主要サプライヤーを100社から24社まで絞りこみ、取引継続と引き換えに都合のよい条件を呑ませるとともに、アップル工場のすぐ近くに拠点を置くよう求めた。19ヶ所あったアップルの倉庫は10ヶ所を閉鎖する。置き場を減らすことで在庫を減らしたのだ。このような対応には、コストが大きく削減されるだけでなく、コンピューターに最新の部品が使えるというメリットがあった。(p.120)

ジョブズは三宅一生と出会い、やがて自分用に制服を用意したらいいと思うようにもなった。そのほうが毎日便利でもあるし、特徴的なイメージも伝えられるからだ。「だから、気に入った黒のハイネックを作ってくれとイッセイに頼んだら、100着とか作ってくれたんだ。(p.121)

自分は独裁的であり、コンセンサスの祭壇に参拝することなどないくせに、アップル社内に“協力の文化”を醸し出そうと様々な努力をジョブズはしてきた。ジョブズは会議が多い。毎週月曜日には幹部会議があるし、水曜日には午後全部を使ってマーケティング会議を行う。製品レビューの会議はどれほどあるかわからないほどだ。ただし、パワーポイントやフォーマルなプレゼンテーションはきらいで、さまざまな立場や異なる部品の視点から問題を吟味しろと求める。(p.121)

社会の各部門は、並列して走りながら協力すべきだとする。本人の表現によれば、「緊密なコラボレーション」と「同時並行のエンジニアリング」だ。「僕らは統合された製品を開発するのだから、プロセスもコラボレーションで一体化する必要があるんだ」。(p.122)

販売の主力は小さなコンピューター専門ショップから巨大チェーンや大型店に移り、そのような店舗の販売員は、アップル製品の特徴を説明できるだけの知識もなければ、そうする動機も持たない人が多かった。(p.132)

「アップルが成功するためにはイノベーションに勝利しなければならない。そして、消費者に伝えることができなければ、イノベーションで勝利することができない、と」。(p.133)

アップルストアは、入り口をひとつだけにしようとジョブズは思った。そのほうが、来店客の体験をコントロールしやすいからだ。店に足を踏み入れた瞬間、どこになにがあるかわかることが大事なのだ。(p.133)

アップルストアは、多くの人が歩いているモールやメインの通りに置く。地代は高くても気にしない。ジョブズはそう考えた。(p.134)

種類は少なく、普通の店舗では棚いっぱいにすることはとてもできないほどだった。しかし、ふたりはそれを強みだと考えた。自分たちが作ろうとしている店舗なら、製品の数は少ないほうがいいと。ミニマリストで余裕があり、人々が製品を試してみるスペースを十分に確保した店舗にしたいからだ。(p.135)

会計の手間を少しでも減らせないか。クレジットカードを渡す、レシートを印刷するなどのステップを減らせないかというのだ。どういう風に会計をしたいのか、明快なレシピを渡された。(p.137)

プロトタイプによる検討がそろそろ終わろうかというとき、ジョブソンは、根本的に間違っているのではないか?と眠れなくなってしまった。4種類のコンピューターを中心に製品を配置するのではなく、「人々がしたいであろうこと」を中心に配置したほうがいいのではないだろうか。(p.138) ※このアップルストアのコンセプトは、ジョブズではなく、ジョンソンだった。

完璧ではないと気づいたモノはやり直さなければならない。「良くない部分があったとき、それを無視し、あとで直せばいいというのはダメだ。そんなのはほかの会社がすることだ」。(p.140)

今まで受けたサービスで最高だったものを部下に尋ねたところ、ほぼ全員がフォーシーズンズやリッツ・カールトンなど高級ホテルでの経験を上げた。だからジョンソンは、リッツ・カールトンの研修プログラムに参加させ、コンシェルジュデスクとバーの中間のようなサービスを考えついた。(p.143)

トップクラスの社員だけを集めて、「ザ・トップ100」という研修会を開いている。選定基準はシンプル。“救命ボートに乗せて次の会社に連れていけるのが100人だけならば、誰を連れてゆくか?”である。毎回、「我々が今後すべきことを10あげてくれ」と呼びかける。次々と書き止め、ばからしいと思ったものは消していく。10個の項目が書かれたリストが完成する。ここで、ジョブズは下側7つに斜線を引いて、こう宣言する。「我々にできるのは、3つまでだ」。(p.146)

ジョブズはアップルを変革し、同時にテクノロジー業界全体さえも変革しようとする壮大な構想を打ち出す。パーソナルコンピューターは脇役になどならない。様々な機器を連携させる「デジタルハブ」になる。ジョブズがいう「デジタルライフスタイル」のあらゆる側面をコンピューターで管理できるのだ。(p.147)

デジタル革命の次なる段階を予見し、推進したのがジョブズだったのには、理由がいくつかある。(抜粋)
音楽や写真、動画が大好きな上に、コンピューターも大好きだ。“デジタルハブ”とは要するに、創造的なアートの世界のモノを、優れたエンジニアリングで結びつけることだ。のちにジョブズは「リベラルアーツ」と「テクノロジー」の交差点こそが彼が立つ場所であり、だからこそ、誰よりも早くデジタルハブを思いついたんだ。
アップルは投資で景気後退を乗り切ろうとしたんだ。研究開発費を使ってさまざまなモノを発明することで景気後退が終わるとき、競合他社のはるか先にいくようにしようと思ったんだ。
(p.148)

革新的な会社の特徴は、他者に先駆けて新しいアイデアを思いつく事ではない。遅れをとったときに、他者を飛び越えて、先行できるのも革新的な会社である証なのだ。ナップスターが出たとき、ジョブズは、「バカをしたなという感じだった。せっかくのチャンスをつかみそこねた。そう思った。がんばって、おいつかなきゃって」と語っている。(p.153)

指先でホイールを回せば楽曲がスクロールする。回し続けるとスクロールが早くなるので、何百曲であってもさっと移動できる。ジョブズが叫んだ。「これだ」。
ここでもジョブズが要求したのは「シンプルにしろ」だ。曲でも機能でも3クリック以内でたどりつかなければならないし、どこをクリックすべきが直感的にわからなければならない。(p.162) ※これもジョブズのアイデアじゃない

「彼は問題自体やアプローチをまったく違う視点から見て、問題を解決してしまうんです。ユーザーインターフェースに問題があって可能な限りの方法を試したと思っていると、「こういう方法は考えたか?」、と尋ねられたりするんです。みんな、「うわー、その手があったか」って感じで。」と、フェデル。(p.162)

シンプルの極致と言えるのは、ipodにオン・オフのスイッチをつけないというジョブズの決定だろう。これには、まわりも驚いた。たしかに必要ないのだ。美的な意味でもあるべき形という意味でも不快なだけである。使うのをやめると休止状態となり、なにかキーに触れると使えるようになる。それで十分であり、クリックすれば、さよならとオフになるスイッチなど必要ないのだ。(p.163)

広告会議では、一番右側は一般的なパターンで、白い背景にipodが写っている。一番左が偶像性を中心としたグラフィカルなもので、ipodを聴きながらダンスをしている人物のシルエットが描かれている。白いイヤホンコードのうねりとともに。「音楽に対する気持ちや個人的強い想いを表現したものです。」とヴィンセントは言う。ジョブズは、「製品が写っていないじゃないか。それじゃなんの広告かわからないぞ」と首を横に振る。それでも、こっちがオススメだとヴィンセントを退かない。ようやく賛成したジョブズは、そのあとはいつものことながら、偶像性を取り上げた広告を推進したのは自分のアイデアだと言い始める。(p.167) ※自分のアイデアではなく、自分がジャッジを下した。そして、最初に首を振ったからこそ、キャッチフレーズが広告に加えられた。

新しい広告を作ろうとすると、ジョブズは二の足を踏み、ヴィンセントにキャンセルすると連絡することが多かった。「(ブラックアイドピーズでは)ちょっとポップすぎないか」「ちょっとありふれていないか」という具合に。最終的にジョブズも落ち着き、制作された広告が大好きになる。これが繰り返された。(p.168)

ソニーはいろいろな意味でアップルの逆だった。かっこいい製品をつくる消費者家電部門もあれば、ボブディランなど人気アーティストを抱える音楽部門もあった。しかし、各部門が自分たちの利益を守ろうとするため、会社全体でエンドツーエンドのサービスを作れずにいた。(p.180)

「スティーブらしいやり方です。その場では同意するのにそれが現実にならない。やった!という気にだけさせてテーブルから下げてしまうのです。彼はちょっと異常なのですが、これが交渉では有利に働きます。天才ですよ」と、ラック(ソニーミュージックのトップ)は語る。(p.181)

アップルと同じことがソニーにもできたはずなのに、ハードウェアとソフトウェアとコンテンツ部門に協力させられずに失敗した。(p.182)

大きな意味を持つごく少数のものに集中する力、優れたユーザーインターフェースを作る人材を確保する力、製品を革新的にしてマーケティングする力という意味で、スティーブ・ジョブズはとにかくすごく」と、ゲイツ。(p.187)

ジョブズは「事業的にそのほうがいいという証拠を見せられるまで、僕は首を縦に振らない」と言う。ジョブズなりの譲歩だった。(ウィンドーズユーザーにもipodを使わせる件)。(p.188)


「みんな、ipodを自分のために作ったんだ。自分のため、あるいは自分の友人や家族のために努力するなら、適当をかましたりしない。大好きじゃなければ、もう少しだけがんばるなんてできない。もう1週間とがんばれやしない。音楽を大好きな人と同じだけ、現状をなんとかしようと努力なんてできないんだ。」と、ジョブズ。(p.191)

なぜ、ソニーは失敗したのだろうか。ひとつは、AOLタイムワーナーなどと同じように部門ごとの独立採算性を採用していた点だろう。そのような会社では、部門間の連携で相乗効果を生むのは難しい。ジョブズがすべての部門をコントロールしているため、全体がまとまり、損益計算書がひとつの柔軟な会社になっている。もうひとつは、ソニーも共食いを心配した。デジタル化した楽曲を簡単に共有できる音楽プレーヤーと音楽サービスを作ると、レコード部門の売上にマイナスの影響がでるのではないかと心配したのだ。(p.193)

ジョブズは“共食いを怖れるな”を事業の基本原則としている。「自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだからね」と(p.193)

「たたき台をつくったあと、それを改良して改良して、デザインやボタンや機能など、細かなモデルを作るんだ。大変な作業ではあるけど、繰り返すうちにだんだんと良くなり、最後は、こんなのいったいどうやったんだ!?ねじはどこいった?!って具合になるんだ。」と、ジョブズ。(p.211)

ジョブズはクリエイティブなプロセスには立ち入らない。ピクサーで、クリエイティブな人々に仕事を任せることを学んだのだ。そうなった原因は、なんといっても、ジョブズがラセターをとても気に入っており、おだやかなアーティストであるラセターがアイブと同じようにジョブズを上手に操縦したからだろう。ピクサーにおけるジョブズの役割は基本的に交渉担当である。この仕事では、ジョブズが生来持つ激しさが有利な資産として働くからだ。(p.222)

2005年秋、ジョブズが再編した経営チームの)全員に共通しているのは、ジョブズに敬意を払うが反対意見を提出し、議論をすることが期待されているとわかっている点だ。バランスがとても難しいが、それをうまくこなす人材ばかりなのだ。クックは言う。「自分の意見を言わなければばっさりやられると早い段階で分かりました。議論を活発にするためスティーブはわざと反対意見を言うのです。そのほうがいい結果が出ることもありますからね。つまり、反対できない人は生き残れないのです。」(p.271)

自由な対話が行われる1番の場は、月曜朝の9時にはじまり、3〜4時間続く経営チーム会議だ。まず10分ほど、クックがチャートを示して業績を説明したあと、製品ごとにさまざまな討論がおこなわれる。焦点は将来だ。ジョブズはこの会議を通じて、アップル全体にミッションを浸透させる。このように集中制御しているからこそ、製品と同じようにアップルは全体がひとつにまとまり、分権化した会社で問題となる問題間の争いがないのだ。マーケティング的な考え方で各部門に製品ラインを増やしたり、咲くにまかせたりせず、優先順位の高いもの、2つか3つに絞ることをジョブズは求める。クックは指摘する。「彼以上にノイズをシャットアウトできる人はいません。だからごく少数のものに集中し、おおくの事にNOが言えるのです。それを上手にできる人はめったにいませんよ」と。(p.270) ※ジョブズの強みは、つまり、将来に焦点を当てる→集中させる事業を選定する(剪定)

ファデルらは、まずipodからスタートした。電話関連の機能をホイールでスクロールしようとした。しかしうまくいかない。別プロジェクトで進められていたタブレットコンピューターがあった。2005年、ふたつの話が交わり、タブレットのアイデアが電話プロジェクトに伝えられる。つまえり、ipadのアイデアが先にあり、それをもとにiphoneが生まれたのだ。(p.280) 新商品の開発では、他社との共同開発→失望→自分でつくることを決定→誰かがアイデアを出す→ジョブズの琴線にふれる→洗練させる

(マイクロソフトのタブレット開発の話を聞いたとき)ジョブズは言った。「タブレットとはどういうものか目に物見せてやる」と。翌日チームを集めて宣言する。「タブレットを作りたい。キーボードもタブレットもなしだ」。入力はスクリーンを直接指でタッチしておこなう。そのためには、複数の入力を同時に処理できるマルチタッチ機能を持つスクリーンが必要だ。6ヶ月でプロトタイプができた。これをユーザーインターフェースデザイナーに渡すと、1ヶ月ほどで慣性スクロールというアイデアがあがってくる。(p.282)

ブラックベリーの人気を受けて、キーボードも用意すべきだとするメンバーもいたが、ジョブズは拒否権を発動する。物理的なキーボードはスクリーンを小さくしてしまうし、タッチスクリーンキーボードに比べて柔軟性も適応性も劣る。(p.284) ※他人のアイデアを自分の確信アイデアができあがる

シンプルに見える機能の一つひとつが、じつは、クリエイティブなブレインストーミングの結果なのだ。他の電話を複雑にしている要素をシンプルにする方法をチームメンバーが工夫する。これを何度も何度も繰り返したのだ。(p.285)

2007年、ジョブズが安価なネットブックコンピュータについて検討していたとき、「どうしてキーボードとスクリーンを開く形にしなければならないのか」とアイブが疑問の声をあげたのだ。それではコストもかかるし、図体も大きくなる。それよりマルチタッチインターフェースにして、スクリーン上にキーボードを用意すればいい。この意見にジョブズも賛同する。そして、タブレットプロジェクトに勢いがつく。(p.315)

「主張がなきゃいけない。マニフェストだ。でかい話だ」 ipadは世界を変えると宣言した。だから、宣言をパワーアップするキャンペーンが欲しい。1年もすれば、他社から似たようなタブレットが出てくる。そのときまでに、本物はipadだと覚えてもらいたい。「我々の実績を高らかに宣言する広告が必要なんだ」。(p.329)

アップルらしさには一定の要素がある。すなわち、シンプルでクリーン、そして自らの意見を宣言するものでなければならないとジョブズは考えている。(p.329)

iBooksでは、販売する商品の値段は出版社が自由に決めていい。ただし、売上の30%はアップルがいただく。それではアマゾンよりも高い値段になるはずだ。しかし、ジョブズはにっこり答えた「そうはならないよ。値段は同じになるさ」と。(p.334)

アマゾンのやり方が間違いなんだ。一部は卸価格で買って、原価割れの9.99ドルで売り出した。出版社にとってこれはおもしろくないだろう。そんなことをされたら、ハードカバーを28ドルでなんて売れるはずないと思うからね。そんなわけで、アップルが参入する前にアマゾンから本を引き揚げていた出版社もあたんだ。実は、もうひとつ条件があってね。ウチよりも安く売っているところがあったらウチもその値段で売っていい事になっているんだ。だからみんな、「エージェント契約にしなければ、アマゾンには本は卸さない」って申し入れたんだ。(p.334) ※つまり、アマゾンで安く売ってればiBooksも安い値段で売って利益が減る上に、売上の30%を取られてしまう。

音楽と書籍、それぞれ自分に都合のいい形を目指していることは、ジョブズ本人も認めている。音楽会社に対しては、値付けの自由があるiBooksのようなエージェンシーモデルは示さなかった。理由は、その必要がなかったからだ。でも、書籍についてはエージェンシーモデルを示した。「書籍は先発じゃなかったからね。あの状況でベストだったのが“合気道的”な動きで、その結果、エージェンシーモデルになったんだ。(p.334) ※きちんと下準備をしている。音楽は海賊版対策もあったから、音楽会社は低価格でも納得したのかな

NYタイムズはすでにウェブで無償公開しており、2,000万人ほどが訪れていた。年間300ドル以上の印刷物は100万人が購読している。「この中間点、デジタル版の定期購読が1000万人になるあたりを狙うべきだ。そのためには簡単に手続きができて、安い値段でなければならない。1クリックで購読ができて、月5ドルがいいところだろう」。(p.336)

テイト(夜中にクレームを入れたブロガー)は言う「彼の会社が群を抜いてすばらしい製品をつくっているからだけでなく、デジタルライフに対する確固たる意見をもとに、自分の会社を構築し、再構築しただけでなく、彼は先頭に立ってそれを守ろうとする。精力的に。率直に。週末の夜中2時に。」(p.353)

事実、つまりデータをたんたんと発表する。傲慢に見られないよう注意しつつ、自信を持って断固たる態度で臨むべきだ。しっぽを巻いて記者会見に臨むなんてダメだ。たんたんと「電話は完璧じゃない。我々も完璧じゃない。我々は人間で、できるかぎりのことはしている。データはこのとおりだ」とやるべきだ。「とマッケンナ(広報のグル)は意見した。「スティーブを謙虚に見せようとしてもうまくいくはずがないと思いましたから」と。(p.360)

ジョブズが「カリスマ性を持つ最後の人物」として人々を魅了する力を持つからだとする。ほかのCEOなら平身低頭してすさまじいばかりのリコールを呑むしかないがジョブズは違うわけだ。「怖いほどやせた姿、絶対主義、聖職者のようなふるまい、聖なる存在とつながっているかのような彼の雰囲気がすばらしい効果を発揮し、今回、なにが大事でなにが取るに足らないものなのか、自ら威厳をもって決めるという特権を彼は手にしたのだ。」と、評論家は評する。(p.362)

電話が完璧でないと最初に宣言することで、ジョブズは議論の文脈をはっきりと変えてしまったのだ。「文脈をiphone4からスマートフォン全体へとジョブズが変えていなければ、人が手に触れると動かなくなる、このお粗末な製品をテーマにすごくおもしろいマンガが描けたはずだ。でも、文脈が「どのスマートフォンも問題を抱えている」に変えられた瞬間、ちゃかして楽しむチャンスが消えてしまった。全体に共通するおもしろくもない真実ほど、ユーモアをだいなしにするものはないのだ。」(p.363)

アップルのモバイルミーは問題が多すぎて信頼できないとレビューされたことに対して、チームを集め、「我々の友人であるモスバーグでさえ、アップルに好意的な記事を書かなくなったほどなんだからな」と、がみがみと叱り続けた。(p.374) ※他人の意見を見ていて、実際気にかける必要があると実感すれば、変えようとする姿勢がある。

アップルの企業文化では、「結果責任が厳しく問われる」のだ。(p.374)

シンプルなコンセプト“すべてが一体となって機能する”こそ、アップルの強みである。(p.377)

「一番強調したのは「集中」だ。もっと大きくなったとき、どういうグーグルであってほしいのかをはっきりさせなきゃいけない。いまはなんでもありの状態だ。5つの製品を集中するとしたらどれを選ぶ? ほかは全部やめてしまえ。足を引っ張られるだけだ。」と、ジョブズはラリー・ペイジにアドバイスした。(p.404)

ipadのデザインは本当によく考えられている。だが同時に、ユーザーに対する軽蔑もはっきりと感じられる。子どもにipadを買い与えても、「世界はお前のもので、好きにバラして組み立て直していいんだよ」と襲えることにはならない。バッテリーの交換でさえプロに頼まなければならないと教えることになるのんだ。」と、有名ブログは書いた。(p.419)

ジョブズにとって統合アプローチという信念は信義の問題だ。「ほかの連中のように、ガラクタを作るのではなく、すごい製品が作りたいからだ。ユーザーのことを考えるから、体験全体に責任を持ちたいからそうするんだ。みんな、自分が得意なことで忙しくしているから、僕らには僕らが得意なことをしてほしいと望んでいるんだ。みんな、自分の暮らしは満杯状態なんだ。」(p.419)

スティーブ・ジョブズの物語は、シリコンバレーの創造神話となる。まったく新しいものを発明したわけではないが、未来をもたらす形でさまざまなアイデアやアート、テクノロジーを組み合わせる名人だ。(p.422)

リーダーには、全体像をうまく把握してイノベーションを進めるタイプと、細かな点を追求して進めるタイプがいる。ジョブズは両方を追求する。過激なほどに。(p.422)

ジョブズの想像力は、予想もできない形で直感的にジャンプする。ときとして魔法のように感じるほどだ。数学者、マーク・カッツが言う「魔法使いのような天才」とは彼のような人間を指すのだろう。どこからともなく着想がわいてくる人物、知的な処理能力よりも直感で正解を出してしまうタイプの人間だ。まるで達見かのように、ジョブズは周囲の状況を把握し、風のにおいをかぎながら、先にながあるのか感じ取る。(p.423)

僕は、いつまでも続く会社を作ることに情熱を燃やしてきた。すごい製品を作りたいと社員が猛烈にがんばる会社を。それ以外はすべて副次的だ。もちろん、利益を上げるのもすごいことだよ。利益があえればこそ、すごい製品を作っていられるのだから。でも、原動力は製品であって、利益じゃない。(p.424)

顧客が今後、何を望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。欲しいモノを見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんてわからないんだ。(p.424)

ビル・ゲイツは“製品タイプ”の人間に見せたがったけど,本当のところはそんなタイプじゃなかった。彼はビジネスマンなんだ。彼にとっては、すごい製品を作るよりビジネスで勝つ方が大事だった。すごい会社を作った点は評価しているし、彼と仕事をするのは楽しかったよ。頭がよくて、ユーモアのセンスも意外にあるしね。でも、マイクロソフトのDNAに人間性やリベラルアーツはあったためしがない。(p.426)

いい仕事をした会社がイノベーションを生み出し、ある分野で独占かそれに近い状態になると、製品の質の重要性が下がってしまう。そのかわり重く用いられるようになるのが“すごい営業”だ。IBMのジョン・エッカーズは頭が良くて口がうまい一流の営業マンだけど、製品についてなにも知らない。同じ事がゼロックスにも起きた。営業畑のインゲンが会社を動かすようになるち、製品畑の人間は重視されなくなり、その多くはイヤになってしまう。(p.427)

スタートアップを興してどこかに売るか株式公開をし、お金を儲けて次に行くことを考えている連中は、本物の会社を作るために必要なことをしようとしないんだ。それ(本物の会社をつくること)がビジネスの世界で一番大事なのに。1世代あるいは2世代あとであっても、意義のある会社をつくるんだ。(p.427)

何が僕を駆り立てたのか。クリエティブな人というのは、先人が遺してくれたものが使えることに感謝を表したいと思っているはずだ。僕らの大半は、人類全体になにかをお返ししたい、人類全体の流れに何かを加えたいと思っているんだ。それはつまり、自分にやれる方法でなにかを表現するってことなんだ。(p.429)

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